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戦争と書いて父親と読ませるブルース



どうしても父親は、俺にエアコンを使わせたくないらしい。そのことを俺に直接言わず、間接的にじわじわとプレッシャーをかけようと、父親、またの名を戦争と言ってもよいのだが、物騒なので父親のままにしておこう、とにかく彼は一階にある俺の部屋の窓の向かいの横庭で何らかの作業を始めるのだ。父親は己の気配を息子に感じさせるために、エアコンの室外機の辺りをわざとらしく動き回ることで、この俺を悔い改めさせようとしているのだろう。カトリック対プロテスタントだ、ユグノー大虐殺だ。寛容と不寛容の狭間で鈍い息をする二人の人間。おい息子よ、エアコンの使い過ぎは許さんぞ、エアコンは電気代がかかるんだ、いいか、エアコンなんか使うんじゃない、おまえがエアコンを使っていることは千も万も承知している、そう父親は言いたいのだろうが、口よりも気配で息子に示し、改心させようとしているのだ。俺の部屋をノックすることなく、戦争のような父親は俺が一階の部屋の窓際に据え付けてあるベッドで昼寝を始めようとするのを察知したとたん、玄関を速やかに出て、前庭を横切って右に折れて、俺の部屋の窓の真ん前をうろちょろするのだ。そのカーテン越しの人影はまさに周囲を不幸にする形をしていて、えげつないくらいに悪意の香りがするのだ。影の形から父親がこちら側を向いてるのがわかる。わかるってもんじゃない、大袈裟な足音のように、大袈裟な咳払いのように、わかりやすいくらいドス黒い父親の姿だ。 俺は昼寝しようとするのをやめて、二階の広い部屋に上がり運動でもしてやろうと画策し、実際に始めてみるが、寒々とした気持ちでそわそわ落ち着かず、壁を這って父親が二階の窓から覗き込んできそうで落ち着かない。いつものパターンでは、落ち着きのない父親は、革命に関する号外の新聞でも入手しようとするホームレスのように、二階のテレビに猛烈なスピードで向かうはずだ。一階にいるはずの俺の気配が感じられないときは、さては息子よ、二階で何かしようと企んでいるな、そうはさせんぞ、おまえは俺の監視下にいなければならん、わかったか、待ってろ、待ってろよおおおお、という白昼の幻想に襲われるらしい。今日の俺は二階に上がっても、ほんの数分くらいしか運動できないだろう。俺はびくびくする。万引き犯になったみたいだ。ほんのちょっとの音でも、父親が玄関のドアを開けた音ではないかと勘違いして、魂ごと引きつる。俺は機先を制し運動をやめて一階の部屋に入る。すると、父親が玄関ドアを開けて、とても不愉快な金属音の反響する号砲が打ち鳴らされたのだ。父親の凱旋だ。


平和があって
試練の時が経過して
平和がやってくる
古風な平和と
新奇な平和との合間には
悲惨が割り込むように席を占めていたのだが
やがて幅を利かせていたはずの悲惨は
真ん中になってしまったがゆえに
居心地悪く咳払いしながら
三人席をご退席ってわけ
戦争を忘れるな
戦争を知らないわたくしの言えることは
それだけだ


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