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母親量子のゆらぎ


ストレス解消に九谷焼のとても小さい花瓶をチャリンコに乗りながら、
イトーヨーカ堂の近くのアスファルトの地面に投げ付けてみようかな、
わたくしはそのときそういう神が脳の中心に降りてきたのだ。

死んだ母親が「わたしが死んだら、
わたしのもんは全部捨てといてー」と言っていたのを思い出したからだろうか。


投げ付ける前、
わたくしの部屋でわたくしは、
それをゴミのような扱いで、
スーパーの袋に入れて、
さらに鞄にいれた。
鞄をさらに母への追憶に入れて、
追憶の中にわたくしも放り込んだ。

家の中の、
母親が買い集めた山ほどもある雑貨類を処分するのはわたくしの唯一の務めであるかのように思われた。
とりあえずは、
近所にあるイトーヨーカ堂のトイレの鏡の前にいたずらで置いてやろうと思い立ち、
実際に行動に移した。

イトーヨーカ堂三階の男子トイレを出て、
寝具コーナー近くにお試しで置いてあるマッサージチェアに座り、
ああ、
こんなマッサージチェア、
母親なら気に入ったんじゃないかな、
とは露ほども思わずに、
スマホのツイッターの画面を見ながら、
ぽけーっとしていたが、
やおら立ち上がると、
トイレに向かい、
件の花瓶があるかどうか確かめた。

花瓶はそのままの場所に、
まるで風化に耐える古代遺跡のように、
自らの重みに誇りを持ちつつ鎮座していたが、
それは、
母親の位牌のごとくわたくしをメローでメランコリーな表情で睨みつけてくるのだが、
とにかくこの面白いトイレのいたずらを誰かが珍奇な目付きでチラ見しないか確認したかった。

数分後、一度トイレから出て、
見納めに鏡の前の花瓶をまじまじ注視し、
これは本当に滑稽なのだが、
手を合わせ、
南無阿弥陀仏と声に出さずに唱えたあと、
わたくしはその花瓶を万引き犯よろしくスーパーの袋に入れた。
まるで骨壺でも殊勝に運び込むみたいに胸にそれを抱えながら、
こいつをどっかに捨ててしまおう、
とわざと脅迫的に自分を信じ込ませ、
速い足取りでイトーヨーカ堂を出た。

チャリンコに再びまたがる。
義勇兵、
いや少年十字軍のように厳かな態度で、
籠の中に聖書的な佇まいのする花瓶を入れ、
スーパーのさりさりする音と添い寝する花瓶とともに、
ゆっくりペダルを踏み込みながら、
アスファルトの大道を歩く野蛮人どもを驚かせるために走り出した。
そう、
わたくしにはちょっと高価な九谷焼の藍色と朱色が鮮やかに呼応する、
この亡き母の手垢のついた聖なるゴミを捨てるという使命があるのだ。


わたくしha、つまり、おれha
こわいお^っ^さ^ん^なんだぜKKKKKKKほんきで・歩行者の記憶に輪廻の∞∞∞∞ごとく∞∞∞∞わたくしの悪意をきざ?∞∞み? つけ?∞∞て?やるんだ∞∞
AND
AND
AND
わたくしは己のかばんとはべつに、ちゃりんこのかごにいれたすーぱーのふくろからKKKKKKK手のひらにすっぽりおさまるくらいの、かびんを(革命だ。これは断じて革命だ)取り出し(TORIDASHI)歩行者どもがこのこわいおっさんの横を通り過ぎようとしたその「「「「「瞬間」」」」」に○●○●●●○●●●●●●○=====KKKKKKK地面に投げつけた=====あ!∴∴∴∴


投げ付ける前は、
なんだか割れないような気がしたのだ。
母親の素粒子やクォークが原子や分子をいきなり超えて、
わたくしの想いの中で頑固に固まっているように、
どれだけ本気で投げ付けようとも、
割れない気がしたのだが、
地面に叩き付けてみたら、
吃驚、
思いのほかあっけなく粉々に割れ飛んでしまったのだ。
欠片の一つなんて、
アスファルトの舗道からだいぶ外れて、
車道にまで飛び散り、
走る車の顔面がほんの一瞬間、
縮み上がるように、
ブルっと震えたように見えたのだ。
歩行者の顔を見ることはなかった。
そこそこのスピードのチャリンコで通り過ぎながら投げたんだもの。
九谷焼よ、
さようなら。

わたくしは乾いた空気の中をちんどん屋のような気分で帰宅し、
父母の寝室にこっそり入り込み、
母親の遺品である、
髪留めのクリップや輪ゴムを手のひらに載せると、
母の毛が少し絡み付いていることに気付く。

あ、
これも母親だったんだな、
母親を構成する一部分だったんだな、
それなのにこんなに軽いなんて。

髪の毛に恐る恐る触れてみると外光でオレンジ色に膨らみ光るわたくしの指先の上で、髪の毛はゆらゆら震えるが、
か細く艶のないそれは確かに母親なのだ。

まだこの家にいるのだ、
大阪弁の亡き母は。
ほとんどの【母親量子のゆらぎ】は世界に放射されてしまったのだろうが、
髪留めクリップや輪ゴムについた髪の毛も仲間入りさせてやろう。
世界に母親を拡散せよ、
だ。

死んだ母親が「わたしが死んだら、わたしのもんは全部捨てといてー」と言っていたのを思い出したからだ。

わたくしは母親の毛を髪留めクリップや輪ゴムから剥がし、
ビニール袋の中に放り込んだが、
魂の質量が世界に墜落するような大仰な音は立てなかった。
髪留めクリップや輪ゴムも、
カーテンの隙間から漏れる陽の光に透かして、
しばし眺めたあと、
やっぱりビニール袋に捨てたが、
たいした音も立てずにゴミと化した。

どっかの川にいたずらで流そうか。
母親はシャレのわかる人間だった。
毒を持った母親でもあった。
薬でもある母親だった。
遺品整理は大変だということもわかった。
少しずつ捨ててあげよう。
少しずつ。
少しずつね。

どこの誰だか知らないやつに金を払って整理される前に、
わたくしの手で母親の願いを叶えてやらねばならぬ。
母親という痕跡を世界に散乱させるのだ。
母親の素粒子やクォークだって大阪弁で勢いよくヒステリックかつ情趣豊かにしゃべるだろう。

どうせしばらくはこの日本の中に浮遊あるいは沈殿していることだろう。
風に紛れたり川を漂ったり。
わたくしもこの日本にしばらくはいるだろうし、
どこか見知らぬ土地でふいに風をかんじたとき、
それが【母親量子のゆらぎ】だったら、
挨拶ぐらいはするだろう、
なにやっとんねん、
ちゃんと働いてんのんかー、
元気なんかー?
死ぬときはおかあさん、
しんどかってん、
あんたも気ぃつけやー、
と。


(ひとつの気の利いた回想)


母親の母親らしさは消えていくのだろうか。
火葬場の周りの空気は本当に重たいのだ。
母親のあのヒステリックだが情に厚くて、
強いようでいて小心者という特質は燃やされることで、
地球のどこのエリアに配置されるのだろうか。

空気は地球上にかなりの量で存在する。
わたくしの知らない誰かが息を吸うとき、
母親の煙を構成するそのほんのほんのほんの一部分が、
その誰かの鼻腔に紛れ込むこともあるだろう。
さらに肺へと、
母親の分割された部分のいくつかが、
瞬時に送り出され、
やがて胃へと落ちてゆき、
消化され代謝され、
とにかく移動をやめない、
せわしなく動いていた母親の背中を思い出させるほどに

人は消えてなくなることはできないという

どこかのカップルが交尾して男が射精したとき、
わたくしの母親の粒子のほんのほんのほんのひとつが、
カップルの女性の卵子をかたちづくるための素材として、
吸収され合体し、
その女性がいざ懐胎し、
いつかこどもを生むとしたら、
つまり、そのカップルの子に、
わたくしの母親性がちょっぴり息づいているとしたら、
ぜひ会ってみたい。
やあ、わたくしの母親性は君の中で元気かい?
と唐突に笑顔を振りまきたい。

それはそうと、
火葬場の煙突から軽やかに空を渡っていった煙の母親を、
袋か何かに詰めればよかったかな。
煙突の先まで震えながら上って、
つまり、
常識的な行動から逸脱したスリルを味わいつつ、
詩的に厳粛なアクロバットをなぜわたくしの父親は敢行しなかったのだろうか。
作り笑いを周りに振り撒く前に、
わたくしが教えてあげればよかったのかな。
煙の母親は今頃、
横浜の火葬場から遠く離れた彼女の出身地である大阪にいるかもしれない。
母の痕跡を追うのは難儀なものだ





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